『変わり続ける』(出井伸之)は地味に良い本

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約10年にわたりソニーの経営のトップを担った出井伸之氏。その彼の2015年12月出版の本を読みました。

1995年から2000年まで社長兼CEOとして、2000年から2005年までは会長兼グループCEOとしてSONYの顔だった出井氏に関しては、「有名」だけど「ソニーのイメージ戦略は上手くやったけど」、肝心の企業業績はぱっとしなかった、というのが私の認識。

ですが、出井氏「個人」のビジネス人生やプライペートの過ごし方を知り、少しイメージとは異なる意外な面や、参考になる考え方など、新たな発見がありました。書物としては「意外」に良かったです。

いわゆるエリート人生にあらず

出井氏は1937年生まれ。私よりも30歳ほど年上(いわゆる「団塊世代」よりも更に10歳上)です。早稲田大を卒業し、日本で初めてトランジスタラジオを発明したソニー(まだ当時は売上高100億円以下)に就職。入社後すぐの「留学前提」(1年間勤務したら、休職して2年間、自費でヨーロッパの大学院で学びたい)の条件をソニー側に認めてもらい入社します。

当時専務だった盛田昭夫氏に「ヨーロッパでソニーを伸ばしたい」とアピールしたのが喜ばれたそうです。

入社後、実際にジュネーブ国際・開発研究大学院に親に借金して留学。ところが、語学で苦労し、最終的には体調を壊し志半ばで中退しています。

その後も、欧州での会議で上司(常務)の逆鱗に触れ、当時としては明らかな左遷であるフランスに異動を命じられ、フランスから帰国後も今度は横浜の物流センター(大卒もほとんどいない)に33歳の時配属されたそうです。

この様に、少なくともキャリアの前半では会社からも特に有望視されておらず、むしろ、かなり厳しいサラリーマン人生を歩んでいたことは意外でした。

常にベストを尽くした出井氏

ただ、出井氏が偉かったのは、クサらなかったこと。頻繁に配置転換されますが、担当することとなった業務について、一番多く本を書いている著者に実際に会いに行って勉強したり、現場の業務を理解できる貴重な機会であると頭を切り替えて仕事をしました。

そして、出世競争に遅れた自分として、会社に対して何ができるかという視点を常に持ち、会社の言いなりになるのではなく、時には会社に対して「できません」と言ってみる勇気を持って対峙していたそうです。

みんなが嫌がる役回りを引き受ける

そんな出井氏の転機となったのが42歳のときのオーディオ事業部長への就任。文系出身で事業部長になった人物はソニー創業以来誰もいませんでしたが、当時、日本全体がオーディオ不況であったオーディオ事業部に狙いを定めました。要するに、苦境に陥っている部門の「再生屋」をやることで、事業部長になることを企んだのです。見事、企みは実現。その後、コンパクトディスクが世の中に誕生する時期と重なり、社員誰もがデジタル技術に関しては素人同然の中でリーダーシップの発揮もできた模様です。

また、ソニーの中では中核事業にならなかったレーザーディスク事業での仕事を通じて、ハリウッドとのつながりができ、スティーブン・スピルバーグや多くの監督と知り合うことが出来るという幸運にも恵まれています(その後、映画事業で役立った)。人の嫌がる仕事にこそ、チャンスが潜んでいるという事例ですね。

人とのつきあいを重視

多くの左遷経験をして、失敗続きだったからこそ、人づき合いに関してはたくさん学びがあったそうです。まず、「社内」の人脈はものすごく大事だと言います。その人づき合いで一番留意したのが、「知ったかぶりをしない」ということ。オーディオ事業部長になった時、理系の年上の技術者に対し、知らないことを恐れず「教えてほしい」と接することで、逆に信頼を得ました。知ったかぶりをしないということは、相手への敬意を示す行為でもあると。

趣味やプライベートの話も参考になる

本書には、これ以外にも社外の人や、奥さん(社内CEOとして扱う)、子供との関わり方(共通の趣味を持つ)などのエピソードも書かれています。

ソニーを退いて10年も経つのに、アクセンチュア、バイドゥ、レノボといったグローバル企業から今も社外取締役の依頼の声がかかり、プライベートの面でも非常に幅広い分野・年齢の人との交流がある「理由」がわかる本でした。

ソニーの社長、会長を務めたという肩書きと同じくらい、「出井伸之」という一人の個人の立場で考え発言し、自ら「リポジショニング」し続けてきたことが、80歳に近くなった今も彼を「生涯現役」の自由人にしているのだとよく分かりました。

冒頭に書いた様に、必ずしもソニーの経営に及ぼした影響は、良いことばかりではない出井氏ですが、一個人の生き方という点では、共感のできる部分が多かったです。

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