本屋の投資本コーナーを見渡せば、複雑なテクニカル分析や最新のトレーディング手法を謳う本が溢れています。そんな中、目を引く内容の一冊が小林良次(リョウジ)氏の『「株ノート」で60歳から1億円』です。
ダイヤモンド社から献本を受けて、一足先に読ませていただきました。
著者は昭和8年生まれの92歳。終戦後に台湾から引き揚げ、極貧の生活からスタートしたという原体験をお持ちの現役投資家です。63歳でメーカーを退職した際、退職金の一部(350万円)を元手にして、当時ネットで株式取引が可能になったタイミングで本格的に株式投資を始め、89歳で資産1億円を達成されました。昭和ひと桁生まれで理系大学卒というバックボーンを聞けば、本書で語られる「手書きの株ノートによる数値観測」や「徹底したリスク管理」の論理的な根底にも納得がいきます。
私自身、51歳で早期退職して専業投資家となり、投資歴や売買規模の点では(年齢では圧倒的に及びませんが!)著者よりも少し先輩にあたります。だからこそ、本書のような個人投資家の本を読む一番の面白さは「技を盗む」こと以上に、「100人いれば100通りの手法があっていい」という多様性を再確認し、一人の人間の人生観や価値観を追体験することにあると感じます。

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小林良次 ダイヤモンド社 2026年08月27日頃
1. 回転売買と「放置(ホールド)」──案外成績は変わらない?
著者の手法は、伊藤忠商事や日立製作所といった自身が熟知する限られた優良銘柄に絞り、その「うねり(波)」をとらえて何度も回転売買(スイングトレード)を繰り返すスタイルです。
ここでふと興味思ったのは、「もし売買を繰り返さず、仕込んだ優良株をそのまま長期間じっくりホールドしていたら、成績はどうなっていたのだろうか?」という点です。
優良大型株の長期的な右肩上がりのトレンドや、利確のたびにかかる税金・手数料の繰り延べ効果(複利効果)を考えると、案外売買を繰り返した結果とあまり変わらなかったのではないか──そんな疑問も浮かんできます。
しかし著者にとってこの回転売買は、単なる効率の追求ではなく、「毎日机に向かい、手を動かして相場と対話する」という日々の生きがいそのもの。そう考えると、この手間の掛け方こそが著者にとっての正解なのだと納得させられます。(実際、資産が大きく増えたのは、日本株全体が上昇を始めた最近10年と書いてありましたので)
2. 82歳から始めた「手書きノート」の劇的効果
著者の投資人生における最大の転機は、82歳から始めた「株ノート」と「手書きチャート」でした。コンスタントに年間数百万〜一千万円台を稼ぎ出すレベルへ進化されたきっかけは、「億万長者になるため」ではなく、「家族や子どものために知恵を残しておこう」というささやかな動機だったと言います。
- 曖昧さの言語化:「人に教えるつもり」で書くことで、感覚頼みだった売買理由や失敗の原因が客観的に浮き彫りになる。
- 精神安定剤としての機能:暴落の恐怖でパニックになりそうな時や、バブルの熱狂で欲目がくらみそうな時にノートを開くことで、「お前は今熱くなっているぞ」と冷静さを取り戻せる。
日常的にノートをつけない投資家であっても、「感情を制御し、自分の売買を客観視する仕組みを持つこと」の絶大な効果には深く頷けるものがあります。
3. 投資スタイルは「置かれた環境」が規定する
同じ株式投資でも、置かれたライフステージや環境によって取るべきアプローチは全く変わります。
- 著者(63歳退職):年金という定期収入のベース(セーフティネット)があり、投資は「余剰資金の運用兼、定年後の張り合い」。ゆえに銘柄の回転売買そのものをじっくり楽しめる。
- 早期退職者(私):年金受給までの生活費を市場から生み出す必要があり、コア銘柄を長期ホールドしつつも、キャッシュ創出のための一定の売買等の必要性がある。(回転売買ありきではない)
手法に絶対の正解はなく、自身のキャッシュフローの必要性等に応じて最適化されるべきものだと改めて実感させられます。
4. 投資の最大の醍醐味は「答え合わせ」にある
本書の中で最も共感したのは、「投資の最大の醍醐味は『答え合わせ』にある」という著者の言葉です。
単なる金儲けの手段にとどまらず、「この企業の技術や経営者の決断は数年後に花開くはずだ」と自分なりの仮説を立て、時間をかけて検証していく。そして「自分の知的な判断が間違っていなかった」と市場に証明される瞬間こそ、株価の上昇そのもの以上の贅沢な喜びとなります。
おわりに
自らの手でノートを開き、市場と対話し、知性をフル活用して資産を築いていくプロセスそのものが、著者にとって人生を豊かにする最高の知的趣味となっています。
最後に、本書のエピローグで深く心に残った言葉を引いて、この記事を締めくくりたいと思います。
「だから私は、資産を『いくら増やせたか』だけで投資の成果を測りません。毎日を安心して暮らし、好きなことに心を使い、家族に『大丈夫だよ』と笑っていえる。そんな状態をつくれたなら、投資は十分にその役目を果たしています。」
I hope you like it.
