最近、ツイッターでも見かける様になった田中泰輔氏の最新刊を今日は取り上げたいと思います。
まず最初に:初心者向けではない
著者はアメリカ・欧州・日本の大手金融機関9社で通算35年間も市場戦略業務を担ってきた、文字通りのマーケットのプロ。専門は、国内外のマクロ経済情勢を分析し、各市場の間の不均衡や格差を見ながら、世界のどの国、どの市場に投資するのが有利かを分析する「グローバル・マクロ・アプローチ」
本書は著者自身の相場アプローチを、一般投資家にどのように伝えるか思案してまとめたものとなっています。もちろん、一般書の体裁で出版されているので、わかりやすい様に説明されていますが、私(投資経験約30年、読了した投資本は数百冊)が読んだところでは、これは、投資の初心者が読んでも「わからんぞ」という感じを強く持ちました。
逆に言えば、投資経験者にとっては、著者のアプローチを全肯定できないまでも少なからず「得られる」箇所がある本だと言えます。
やはり投資先のコアは米国
「本書は、ほとんどの投資本がどう買うかの攻めを語る中で、どう売り逃げるかを説明」する点に特徴があります。とりわけ投資において「売る」ことが、日本ほど重要な国はないと。
世界の投資家は日本を「サイクル銘柄」と位置づけ、景気のサイクルに応じて「ヒット・アンド・アウェー」、つまり、買って売るメリハリを明快につけていると冒頭で書いています。(理由は本書をお読みください)
そうした中で、以下の通り述べています。少々長いですが、そのまま引用します。
日本の投資家として活路を開くには、世界に目を向けるべき時代と、より切実に考えざるを得ない10年が始まっています。しかし、世界のあちこちの情勢に目を配り、投資をどこに配分すべきかをつかむのは、プロでも容易ではありません。こうしたことを踏まえると、現実的なアプローチは、投資対象を米国や一部の国・地域に絞ることです。特に米国の動向は、日本の景気、円相場、株価を動かすのみならず、新興国や資源の相場をも動かす主エンジンです。つまり、米国の経済、財政・金融政策、そしてドルを把握することで、円ベース投資を国内外市場と体型的につなぐパズルが組み立てられます。
繰り返しますが、自分の頭で判断し、ロジカルに投資しようとする時、米国は格好の対象と言えます。ある程度理詰めで捉えられることが魅力であり、メリットです。米国の経済と市場は、経済学、金融論のロジックがかなり制度として組み込まれ、市場参加者にも理論に基づいて動く人が多数います。そして、政策当局、特にFRBは、金融政策について経済学の知見に基づいて一貫した行動をとり、その政策について説明責任を果たします。
私の様にリスク資産の7割を米国株に投資し、来年、米国株に関する本を出す予定の者にとっては(笑)、まさに自説を補強してくれる説明ぶりでした。
(参考)【ご連絡】初めての本が2月に出ます!
新興国投資は「天国と地獄」を行き来
今後10年を展望すると、日本は低成長、財政・金融政策の持続性や大地震のリスクを認識し、資産形成には海外の高成長を取り入れる必要性を指摘。
米国資産を軸にした上で、「恐らく数年以内に来ると思われる新興国投資ブーム」について言及しています。ただし、新興国投資は「ドル相場のサイクルの追い風に乗り、逆風が来る兆しに敏感に逃げる」という、ヒット&アウェーの徹底が必要であることを説明しています。
専門家予想のバイアス
本書を読んであまり類書に書かれていない内容だと感じたのは、組織・機関別の市場予想の類型化をして、クセのようなものを簡潔に説明していることです。
・国内証券会社
・欧米投資銀行
・日本の銀行
・機関投資家
・シンクタンク
その他
最後の第III部「ポストコロナへ投資チューニング」では、これから想定されるテクノロジーの変化や地球環境問題など幅広い視点も踏まえて、今後、我々個人投資家がどの様な心構えをしておくべきか、また、大胆に数年単位で相場の全体感を提示しています。
ここでは、具体的な相場の目標水準については触れられていませんが、読者にとっては今後のイメージづくりには資する内容であると感じました。
なお、著者は1995年に『マーケットはなぜ間違えるのか』(東洋経済新報社)という市場心理学、相場行動学の本を書いていますが(我が家にも昔あった)、今でいう行動ファイナンス理論などの走りとでも言える同書のエッセンスも本書では披露されています。
以上の通り、幅広い内容を含む本書はタイトルで連想される内容に限定されない投資に関する示唆が得られる本ですので、投資経験者の方は手に取って損はないと思います。
I hope you like it.