過去に読んだ本の再紹介シリーズです。
今回は、アクティブ投資を実践している投資家にお薦めしたい本格的な投資本です。
本書には統一されたスタンスがある。「平均的な株式市場から離れることにより、株式投資からそれにふさわしい収益が着実に得られる、少なくともその可能性を高められる」
これは「脱市場(BMA、benchmark-agnostic)投資」とも呼ばれるもので、本書の中では「厳選投資」として、理論面、実践面の両面から検証されています。
個別銘柄の紹介に終始する怪しい株式投資の本や、最近ではインデックス投資に関する本は書店でもよく見かけますが、日本人の著者による、こうしたタイプの本は珍しく、私の知り合いの個人投資家の間でも評価が高かったので、読んでみたものです。
まずは、著者の紹介から。
本書は、もともと編著者となった京都大学大学院教授・川北英隆氏が「厳選投資の会」の中神康議氏(前あすかコーポレイトアドバイザリー㈱代表取締役社長)と「特定の企業を選んで株式投資することの重要性を紹介する本」の出版を検討していたところ、どうせなら「厳選投資の会」(コモンズ投信の渋澤会長・伊井社長や、野村総合研究所上席研究員、機関投資家の実務者で構成)での研究内容や、さらに年金ファンドの実務者の意見も加えようということで話がまとまった経緯があります。各自が章を分担し、それを川北氏が編著し完成されたものとなっています。
全体の流れとしては、
1⃣厳選投資の理論的、論理的な背景、2⃣厳選投資のマネジャーの実例、3⃣厳選投資を含めたアクティブファンドへの投資、の順となっています。
以下、重要な点について簡記します。
<第1章「市場」は買えるのか>
・PBR1倍割れが生じる背景 ROIC<WACCの状態であるため。日本の平均的な上場企業のROICが低位にあるため、PBRが長らく1倍割れを続けてきたのではないかとの推論が成り立つ。
・大企業の売上高付加価値率、総資産営業利益率は一貫して低下してきた。
・現実的な資本コストは、全産業2.6%、製造業2.9%、非製造業2.2%。日本国内で活動する大企業はこの13年間の平均において、資本コストをまかなえていなかった。
・日本の株式は業績が向上する時期をねらって短期的には買えても、長期に保有することを目的に投資するのは適さない。つまり、年金ファンドが中長期的の保有目的で採用しているインデックス投資は不適切
・日本の場合、名目GDP成長率が低下すれば、明らかに総資産営業利益率でみた企業業績のばらつきが拡大
・日本企業に関して単純にPBRに基づきバリュー株を選び、投資することは「非合理的な経営を行っている企業」にあえて投資することになる。
・厳選投資の必要性は、経済成長率が低下するに従い、高まる。投資理論がインデックス運用の効率性を示唆しているとの理由だけで、無批判にインデックス運用を採用することは望ましくない。投資理論が想定する状況が現実の経済において成立しているのかどうかが、最初に問われないといけない。
<第2章 高投資収益率企業の定量的特色>
・株式市場全体の動きと関係なく、プラスの投資収益率を獲得することができそうな指標は、将来の利益をもとに計算されるROE変化幅のみ
・ROE変化幅のような利益の成長に着目した少数銘柄によるポートフォリオを構築することで、株式市場との連動性が低い安定した投資収益率の獲得が期待できる株式投資戦略が実現できる可能性がある。
<第3章 脱市場投資のあり方ーロングオンリー絶対リターン型株式投資の内外事例>
・単純化していうと、短期で株価を当てようとすると、業績よりも人々の期待の変化を当てることが重要になる。このスキルは長期の業績予想とはかなり異なるスキル
・絶対リターン型投資は1⃣キャッシュフローを原資として投資家にリターンを提供するには、収益の高さが株価に反映される長期間にわたって株式を保有する必要がある(長期投資)。2⃣株価を当てることが重要なのではなく、企業があげる将来のキャッシュフローを当てることが重要
・相対リターン型投資と異なる第一の特徴は、最初のスクーリングプロセスで、ファンダメンタル指標のみを使い、PERやPBRなどの株価関連の指標を使わないこと
・定量的な指標としては、高いROIC(Return On Invested Cspital)などが共通。その高いROICを維持できるための参入障壁の高さや忠誠心の高い顧客の存在、その維持を目指す経営陣の存在などの定性評価も加えている。
・本源的価値は1⃣有形資産2⃣持続的収益力3⃣利益を生む成長の3つで構成
・詳細なレベルまで徹底的に調査することで、その企業の将来見通しに対する確信度が高まり自信をもって大量保有できるため、結果として少数企業の保有となる。長期的に有望であると確信がもて、なおかつ割安な価格である企業の数自体がそもそもあまり多くない。
・市場全体のリターンがあまり振るわない場合、絶対リターン型投資は市場全体を上回ることができる。一方、投資家の期待が高まり株式市場が大きく上振れする場合は、市場に劣後する可能性が高い。
・バリューアップ型の投資の担い手は資産運用業界では少ないが、広く産業界に目を転じれば存在する可能性がる。(総合商社や商業銀行)
<第4章 長期投資に耐えうる企業群への投資ー企業を選別して長期的に投資する>
・日本の2012年度の投資主体別売買動向 個人のシェア25.3%、外国人63.0%、国内機関投資家8.8%。その外国人はヘッジファンド中心。日本の株式市場には短期売買の投資家が圧倒的に多く、長期資金は脆弱
・「コモンズ30ファンド」の銘柄選択基準(省略)→コモンズ投信HP参照
<第5章 企業価値増大を楽しむ投資>
・農林中央金庫の社内ファンドに関する基本コンセプト 1⃣売る必要のない企業しか買わない。ファンドにおけるポートフォリオ企業(2013年5月末時点で20社)は、圧倒的なキャッシュフロー創出能力を備えており、時間の経過とともにその企業価値が増大する「構造的に強靭な企業」。この企業群を保有し、見守っていくだけで、長期的に保有価値の増大を楽しむことができる。
・「構造的に強靭」な企業とは、その企業がなければ産業が成立しない、そして、その産業がなければ世界中が(日本中が)困るような不可欠な企業。外部環境にかかわらず、自らの運命を切り開く独立性・主体性の強い企業。日本では100社程度。
・いわばウォーレン・バフェット氏がアメリカの企業に対して行っている投資のスタイルを、日本企業に適用する試み
・投資先企業の株価下落はむしろ喜ばしいこと。なぜなら保有企業の株価下落こそ、その企業価値に対する持分を安価に増加させることのできる絶好の機会だから
・投資企業を工場の所在地に至るまで徹底的に分析し、価値の源泉を熟知しているので、暴落時であっても平然と買い向かうことができるのである。
・長期投資の可否を決める3つの定性的要件 1⃣付加価値の高い産業であること2⃣競合上有利な状況にあること3⃣長期的な潮流に乗っていること
・「そもそも魚のいない池にいっても釣れるわけがない。魚がたくさんいる池を見つけても周りに多くの釣人がいては十分には釣れない。そして自分だけが楽しむことのできる素晴らしい池があったとしても、その池が徐々に小さくなっていては、長期的に十分な魚を釣ることはできない」
・企業価値増大にとって本質的に重要なものは、「参入障壁・競争優位」であり「成長」ではない。産業・企業に参入障壁、競争優位がある場合にのみ、成長に意味がある。
・証券会社をはじめとする市場参加者はDCFを使ってはならない企業(キャッシュフローが合理的に推定できない企業)に対してDCFを使うという誤用を行っている。
・企業価値評価こそリスク管理である。
・企業価値増大を核とする企業投資において必要とされることは産業・企業を視る眼、論理的仮説構築力、仮説に基づく行動力であり、それらは株式投資のみならず、すべての経営者・ビジネスマンに共通して必要とされる素養である。
第5章を中心に内容が大変濃い本書は、個別株投資やアクティブ投資を行っている方、また、コモンズ投信に投資している方(同社の「コモンズ30ファンド」の投資コンセプトは本書に書かれた内容に近い)は、必読です。
I hope you like it.