世界一の投資家として知られるウォーレン・バフェットが、「極めて稀に見る、実益のある本」と絶賛。彼が本書を大量購入し、経営するバークシャー・ハサウェイの株主総会で配布したと知り「即買い」しました。
原著は『THE MOST IMPORTANT THING :Uncommon Sense for the Thoughtful Investor』。2011年アメリカで出版され、ニューヨーク・タイムズ紙のビジネス書部門でもベストセラーにランクインしたそうです。
著者のハワード・マークスは、運用会社オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者兼会長を務める方。同社は高利回り債(ハイイールド債)と不良債権への投資を得意とする運用会社としては世界最大級(運用資産残高約6.2兆円)であり、「リーマン・ショックで最も稼いだ運用会社」として知られる「逆張りファンド」です。
本書は、著者が過去20年間にわたり書いてきた顧客向けレターを核として記したものになりますが、読み始めて「はじめに」出てくる以下の文言に目がすぐ留まりました。
本書の内容がもし「とてもおもしろかった。これまでほかの本で読んだことすべてを裏づける内容だった」と感想をもらす者がいたら、私は本書が失敗作だったと感じるだろう。私の狙いは、読者がこれまでに触れたためしのない投資に関するアイデアや思考方法を伝えることにあるからだ。「そんな風に考えたことはなかった」と言ってもらえたら本望である。
さて、本書の内容は?
本書は「投資のマニュアル本」や「ざっくり読んで、テクニックを身につける」類の本ではありません。「じっくりと熟読して、思考方法を自分のものにする」タイプの本です。
著者曰く「本書は、私の投資哲学の声明文」。
個人的に印象に残ったフレーズの中から「厳選」してメモしておきます。
- 我々は理論をあくまでも決断の手がかりとすべきであり、理論そのものに支配されてはならない。また、理論を完全に無視すれば、大きな過ちを犯しかねない。
- むしろ、投資アプローチは固定化したり、機械的に当てはめたりするのではなく、直感的に決め、状況に応じて適応させていくことが肝心なのだと声を大にして言いたい。
- (バリュー投資とグロース投資の)どちらのアプローチを採用するのかは、割安感と成長性のどちらかではなく、今日の本質的価値と明日の本質的価値のどちらかを重視することではないか。
- 株価水準について正しい見解を持っていても、意志が固くなければ、あまり役に立たない。誤った見解の持ち主の意志が固い場合、状況はさらに悪化する。
- 資産の質の高さには容易に気づくことができるが、割安であることを察知するには鋭い洞察力が必要とされる。このため、投資家はしばしば客観的に見た資産の質の高さを投資機会と勘違いする。
- 投資の世界で最も重要な学問は会計学でも経済学でもなく、心理学である。
- 理論上、リスクはボラティリティと定義されているが、その枠組みにとらわれずに、最も重大なリスクは損失を出すリスクであることを理解しなければならない。
- 損失を回避することは自ずと全体の収益力を高める。
- 投資で成功するには、一般的な見方と相容れないために居心地の悪さを感じるポジションを貫き通す必要がある。
以上の文言を見るだけでは、ちょっとその良さをお伝えするのが難しいですが、ペンシルベニア大学ウォートンスクールを成績優等で卒業し、シカゴ大学経営大学院でMBAを取得後、金融の世界に入った著者ですから、効率的市場仮説等の理論はもちろんおさえたうえで、「リスクコントロールの重要性、投資の一貫性と損失の回避、効率性の低い市場への特化、マクロ予測や相場予想に依存しないこと」を特徴とした「ディフェンシブ」な投資戦略の考え方が随所に散りばめられており、私には大いに参考になりました。
まさに、手元に置いて何度も何度も反芻したい含蓄ある言葉で溢れた一冊です。
投資経験が相応にある方に、特にオススメします。
I hope you like it.
ハワード・マークスの新しい本が出ました。