信越化学工業株式会社 代表取締役会長・金川千尋氏の語録をまとめた本です。
一読して、通底するのは著者の「徹底的な合理的な考え」です。
まず、本のタイトルにある「常在戦場」は著者が師と仰ぐ山本五十六・連合艦隊司令長官の座右の銘です。
いつも戦場にいることを忘れず、いつでも戦えるように備えよーーーまさにこの精神で、1990年に代表取締役社長に就任以来、経営に当たってきたといいます。
以下、一見「何も特別の事はない」内容の本書の中から、私が大事なことだと思う点をピックアップしました。
第1章 組織の原点
「最初からリストラされた会社」が経営の基本
・少ない営業担当者
・スリムな経営陣
・少数精鋭
惰性を振り切り、原点に戻って考える
・財務部門の人数を減らすため、取引銀行数を削減
・財務部門と経理部門を統合。人員を半減
・成果が上がらない中央研究所を廃止
アメリカ人も日本人も会社への忠誠心は変わらない
・2005年、アメリカ南部を襲ったハリケーン「リタ」で工場が危機にあった際、工場に泊まり込んだ39名の現地アメリカ人。
・この事実を知り、一人一人に自筆の感謝状を書いた。
アメリカはやはり強い国だ
・1970年、アメリカ子会社シンテックの社長に就任以来、アメリカにずっと関与。その経験を通して感じるのは「アメリカはやはり強い国だ」ということ
・それは「良いものは良い、悪いものは悪い」と公平に評価するところ
・湾岸戦争時、当社アメリカ人社員が招集された際、従軍中も給与を出し続け、復員後当該社員は職場に復帰。この事実を知ったアメリカ陸軍から感謝の額が当社に贈呈された。
官僚主義を打破して合理的な経営に邁進する
・かつての信越化学では新卒を毎年600人採用していたが、会社の成長に見合わない採用の中止を指示。人事部や各部門の前例踏襲を否定し、社長就任初年度の採用をほとんどゼロとした。
・広告宣伝にも殆どお金を使わず
単なる組織いじりは無意味だ
・カンパニー制度が流行したときにも、それらについて議論したことすらない。組織いじりについて議論や研究している時間があるなら、営業や製造現場の効率化を探究するべき
・執行役員制度も採用せず
第2章 経営の本質
経営には相場感と経営のスピードが不可欠だ
・当社主力の塩ビ事業は、相場の動きを読むことが非常に難しい。その中で私はさまざまな「動き」に毎日注意を払いながら、塩ビの相場変動を読んできた。
・お客様からオーダーのキャンセルやリスケジュールが1件でも出ると、それだけで重大な兆候となる。
今日やるべきことを成し遂げていない会社が、3年先、10年先のことを達成できるはずがない
・中期経営計画は作っていない。「ビジョン」の公表もしない。
・ただし、長期的な展望が不要だと言っているのではない。現在の課題と全力で向き合って初めて、長期的な展望が見えてくるのであって、その逆はあり得ない。
相場で売るのが良い営業だ
・相場よりも安く売るのは営業として失格。相場よりも高く売ってはお客様の信頼を失う。相場で売るのが良い営業だ。
金融機関からの資金をあてにした事業はしてはいけない
・金融機関との調整に力を削がれるのはよくない。事業の好機を逃してしまう。
・少しでも早く投資を実行して、事業を立ち上げることに力を注ぐべき。そのため、自己資金による投資にこだわってきた。
最も重視している経営指標は利益の絶対額
・最も重視しているのは、経常利益と当期純利益
経営者に必要な資質
・これまでの経験から、「判断力」「先見性」「決断力」「執行能力」「誠実さと温かさ」の5つの資質が必要と考えている。
重要な意思決定では、担当役員ではなく、キーパーソンから直接意見を聞くことが大切だ
・知ったかぶりをしたり、メンツを気にするのではなく、キーパーソンにさまざまな質問をぶつけて判断材料にしていく
第3章 リスクと成長
疾風に勁草を知る
・「疾風に勁草を知る」:激しい風が吹いている時だからこそ、強い草を見分けることができる。苦難に直面してこそ、節操の固さ、意志の強さが試される。
リスクには人一倍敏感で、同時にリスクを恐れ過ぎない
・リスクを恐れ過ぎていては、何も成し遂げることができない。大きな成功をつかむためには、ときには思い切った決断が必要
・一方で、リスクに鈍感でもいけない。つまり、リスクには人一倍敏感でありながら、同時にリスクを恐れ過ぎない、それが成功の秘訣
工場はフル生産を継続し、世界で売り切るのみ
・アメリカで13位だったシンテックが世界一の塩ビメーカーになった理由。それはフル生産全量販売にこだわってきたから
第4章 人材と働き方
本当に必要な人材以外は最初から採用しない
・他の部門並、他社並という理由での採用は一切認めない。「まず、新しい仕事を作る。そのために必要な人を雇う」ということを徹底
まとめ
・以前、私が投資したこともある信越化学の著名な経営者である金川氏の「語録」から一部ご紹介しました。信越化学と言えば、上記にもある通り中計を作らない会社として有名です。そして、不景気で他社が動けない時に大胆な投資をしたり、先読みのうまさにも定評がありますが、経営者自ら毎日小さな物事の変化を注意深く見ているからこそ、実現していることがよく理解できました。
・本書を読むと、合理的なアメリカに鍛えられたせいか、ありとあらゆる面で無駄の排除と合理的なものの考え方が示されており、非常に印象に残りました。
I hope you like it.