昨年は166冊読了した。
私の読書遍歴の中では、特に多くもなく少なくもない、言わば「平均的」な読書量の一年であった。
「量」に関しては「平均」でも、「質」に関しては「平均以下」というのが正直なところ。なので、今回は絞って「5冊のみ」個人的に良かった本を紹介することとする。
なお、本題に入る前に毎年行っている簡単な分析から始めることとしたい。
紙と電子書籍の割合
紙で読んだ本は50冊のみで、残り116冊はKindle版であった。実に69.9%が電子書籍で読んだことになる。「電子書籍はちょっと読んだ気がしない」という人もいるが、積読本が何百冊もある自分の場合、物理的な収納場所のことも考慮し、まずKindle版がないかチェックし無ければしばらく待つという習慣が出来ている。
満足度の分布
読んだ本には、個人的な満足度(注:オススメ度ではない)を悉皆に付与している。2016年は以下の分布となった。(★3つがモード)
満足度★★★★★ 2冊
満足度★★★★☆ 30冊(ただし、再読を除けば23冊のみ)
満足度★★★☆☆ 107冊(64.5%)
満足度★★☆☆☆ 27冊(代表例:『金持ち父さん貧乏父さん』『コンビニ人間』『天才』)
満足度★☆☆☆☆ 該当なし
再読を除くと上位評定の★4つ以上は25冊(約15%)しかない結果となった。
今回紹介する本はこの25冊の中から「厳選」して紹介したい。
<出色の短編小説>
まず、最初は普段はあまり読まない小説の中からチョイス。貫井徳郎という推理小説のジャンルでは名前を知られた方が著者の『崩れる』という本。「結婚にまつわる八つの風景」という副題(?)が付せられている。
家庭内殺人、ストーカーなどにより、幸せな家庭や夫婦関係が「崩れて」いく。8つの短編は独立しており、どれも短いがリアリティあるストーリー展開。結末は「怖い」の一言。
この著者の本を読んだのは初めてだったが、他の作品も読んでみたくなった。短くて、読みやすく、それでいて、話はしっかりとしていて、「怖い」。もう一回言いますよ「怖い」。
<政治に対する見方が変わるかも>
今度はノンフィクションから選定。元TBSのワシントン支局長も務めた山口敬之氏が著者。自らの考えをサラリーマンでは貫くことが出来なくなったとして現在はフリージャーナリストとなっている。
まず『総理』というタイトルと本の装丁に現在の安倍総理の写真が使われているため、読者の中には敬遠する人もいるかもしれない。でも「待ってほしい」。めっちゃ、面白い本だから
皆さん、思い出してほしい。今、怖いもの知らずの第二次安倍政権であるが、第一次の時は途中で政権を放り出し、無様な姿を晒したことを。
なぜ安倍氏が復活することが出来たのか?政治家の思考回路とはどういうものなのか?
政治家の執念や凄みを知ることが出来て、本書を読んでから少し政治家に対する見方がいい意味で変わった一冊。安倍好き・嫌いの区別なく読んで欲しい一冊。
<Amazonとジェフ・ベゾスの恐ろしさ>
次もノンフィクションから。私はノンフィクションは本、フィクションの世界は主に映画派。本書の原著はフィナンシャル・タイムズ紙、ゴールドマン・サックス共催ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー2013を受賞。翻訳され日本で発売されたのは2014年なので少し出遅れて読んだことになる。
たくさん本を読んでいると、その中でいろいろな本が紹介されているが、Amazon関係では本書が一番言及されている気がする。それもそのはず、著者は本書のために、300回以上も関係者に取材。ベゾス自身が40年以上音信不通だった実の父も探し当てて話を聞くなど徹底的な裏付けを取って書いている。
ベゾスの生い立ちから始まって、彼の性格や野望、Amazonの徹底的な合理主義や顧客満足度を上げるためには手段を選ばない経営方針等について詳述されている。
正直、本書を読んだ最初の印象は「ベゾス、Amazon恐るべし」の一言。本書を読んで、必ず一度はアマゾン・ドット・コムが時価総額世界一になるに違いないと確信した。アマゾン株式に投資する者は必読。
<マイナス金利>
昨年2016年は英国のEU離脱決定や米国におけるトランプ氏の大統領選勝利等世界中で様々なことが起こった1年だった。日本で起きた出来事では、恐らく今後何十年か後になって「正解」だったのか「間違い」だったのか明らかになるのが日銀が2016年1月に採用した所謂「マイナス金利政策」である。
投資・お金を貸している方が逆に利息を支払わないといけない世の中が現出。現在も年金運用の世界等社会に大きな影響を与えている。
本書の特徴を一言で言い表せば、「日本のマイナス金利の現状を、債券市場のアナリストとしての豊富な経験と実務に裏打ちされた平易な文章で、一般の人にも分かるよう分析・解説した本」ということになる。
ゆえに、ある程度金融に関する知識がある人にとっては「なるほど、こういうことだったのか」と膝を打つ内容であるが、やはり一般読者には少し難しいかもしれない。
<投資家が書いた経営本の良書>
最後は経営に関する本。ベゾスの本も経営書だったが、本書はみさき投資株式会社(代表取締役社長)という投資サイドに身を置く著者が、「競争市場に身を置く経営者と資本市場に生息する投資家との関係のあるべき姿について、投資家ではなく経営者の立場に立って考察する」というユニークなものとなっている。
昨今、投資家からは「社外取締役を置け」とかコーポレート・ガバナンスの観点から「投資家目線」の注文が相次ぐが投資家と経営者はノリやソリが合わない関係にある。でも、だからこそ両者の建設的な対話が必要であり、「投資家と経営者はもっと学び合える」というのが本書のメッセージとなっている。
単に短期で売り買いするだけ、右から左に流すだけでなく、ガバナンスを高めて企業価値向上に資する投資家のあり方について学べる良書。あの『ストーリーとしての競争戦略』の楠木建氏が解説を書いていたので、発売同時くらいに読んだ(日本で最初だったかも)。現物が手元にないので細かいことは書けないが、今まで「ありそうでなかった」異色の書。
以上5冊です。
かなり選定には最後まで迷いましたが、皆様の読書ライフの一助になれば幸いです。
I hope you like it.