つばめ投資顧問の「顧問」に就任

『自分で年金をつくる最高の方法』(大江英樹)は地味だけど良書

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以前読んだ本の再紹介シリーズです。

本書は今から4年以上前に読了したもの。今をときめく「売れっ子」の大江英樹氏がまだ作家としては殆ど知名度がない頃の本です。

以下、ほぼ再掲の内容となりますが、一部加筆・修正した上で、ご紹介します。

2001年10月に制度が導入された確定拠出年金(DC)。いつの間にか加入者も増え、2012年3月末現在で423万人(サラリーマンのほぼ10人に1人)が加入する存在になっています。

主流の企業年金である「確定給付型」年金(DB)は「会社」が年金資産を一括して管理・運用していたのに対し、確定拠出年金(DC)では在職中からあらかじめ従業員に支払い、そのお金の管理・運用を「従業員」に委ねるという仕組み。

しかしながら、多くの加入者は「資産運用ってどうやればいいの?」の状態にあり(著者曰く、何もできない“運用難民”)、本書はそうした方を対象に書かれた本となっています。

本書について、一言で表せば「大変親切丁寧に作られた良書」です。

1 そもそも年金とは何か

・冒頭に本書は確定拠出年金に関する本であると書きましたが、「年金制度全般」に関する説明も非常に分かりやすく(むしろ、私も含め確定拠出年金の制度を利用していない方にとっては、この部分が為になるかも) 、本書の価値ある部分です。
・一般的に年金の話になるといつも引き合いに出されるのが、「サラリーマンの年金は3階建てになっており、1階部分が国民年金、2階部分が・・・・」の話です。私も何度もこれまで聞きましたが、説明している人間が本当に(重要な点を)理解しているのか?というくらい要領を得ない説明が多いわけですが、本書では金の出所から出発し、国からもらう「公的年金」と会社からもらう「企業年金」の2つに分けて説明しています。企業年金は企業が社員に支払う給料の後払い的な性質を有するもの(退職金と同じ)であるのに対し(よって、掛け金を出すのは原則すべて会社)、公的年金は社会保障制度のひとつであり、助け合いの仕組み(よって、掛け金は国と企業と社員がそれぞれ負担) であると頭の整理をしてくれます。
・その他、中小企業退職共済制度、特定退職金共済制度、AIJ事件で話題になった厚生年金基金等の仕組みについても簡易な説明がありました(恥ずかしながら、よく知りませんでした)。

2 確定拠出年金は日本版401Kではない!

・ 「DC」と「DB」の説明を飛ばしていましたが「DC」とは確定拠出年金をあらわす“Defined Contribution”の頭文字です。一方、「DB」は確定給付型の英語“Defined Benefit”の頭文字です。
・日本に確定拠出年金(DC)が導入された際、“日本版401K”と呼ばれましたが、これはとんでもない間違い、誤解を生む表現であると著者は強調しています。なぜなら、アメリカにはもともと退職金制度はなく、アメリカの401Kは基本的に会社の福利厚生制度の手段のひとつであるのに対し(よって、積み立てるのは従業員本人のお金)、日本の確定拠出年金(DC)は既に説明したとおり、給与の後払いであるという大きな違いがあります。
・いわゆる「マッチング拠出」の意味も日本では退職金制度に従業員がお金を上乗せ(マッチング)するのに対し、アメリカでは従業員が拠出する福利厚生制度に対し、会社が上乗せ(マッチング)するという全く逆の仕組みとなっています(知ってましたか?)。

3 DCの従業員にとっての最大のメリット

・ここからは略称で説明します。著者は従業員にとってのDCの最大のメリットは「会社がつぶれても年金資産は大丈夫!」な点であると言います。なるほど、かつて倒産するはずはないと思われていた一流企業が破綻する様になり、企業OBの受給権に関しても後から変更が行われるリスクのある日本にあっては、この点は大変魅力的です。

4 DCにおける運用とは

・上記の様な年金制度に関する誤解を易しい説明で解き、後半では「運用」に関して「本当に重要な点」を普段運用に関する本をあまり読まない方でも理解できるよう説明しています。
・ DCにおける運用の特徴は、1)自分で選べる商品が限られていること、2)毎月一定額を少しずつ積み立てながら運用をすること、3)途中でお金を引き出すことはできないこと、4)金融商品間の売買手続きには時間がかかること、の4点。
・上記は一般の個人の資産運用に比べると制約があり、一見デメリットに見えますが「資産形成達人の法則」である、1)長期の構えで投資をし、短期間の値動きには一喜一憂しない、2)一度のタイミングで集中投資せず、購入する時期をわける、3)ひとつのものに集中して投資せず、様々な資産に分散投資をしている、の3つ法則のうち2つが自動的に備わっている!というのです。
・あとは、残る3つ目のアセット・アロケーションを年金資産以外のその他の資産とトータルに行えば、O.K.ということになります。

5 最後に

・従業員の立場から見た点中心に書きましたが、本書では会社側のDCのメリット(退職給付債務削減)やデメリット(事務負担の増大、従業員教育の責任増大)等についても過不足なく言及がなされており、今後、DCへの制度変更を検討されている企業にとっても参考になると思います。
・私はこれまで資産運用に関しては、ある程度知識・経験とも積んできましたが、勤務先が確定給付型の企業年金ということもあり、年金に関する知識は不十分でした。本書を読んで、理解不十分であった点が非常にクリアになりました。
・本書を多くの方が読み、早期に“運用難民”から脱出されることをお祈りします。

I hope you like it.

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この記事を書いた人
エル

50代、4人家族。1991年株式投資を開始。リーマンショックの影響により過去最高の含み損を抱えるも、2009年末に復元。2011年レバレッジ投資(両建て投資)終了。2019年セミリタイア。現在は米国株を中心に運用中。趣味は読書で「積ん読」は数百冊を誇る。音楽や映画鑑賞も好きです。

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