1995年1月に西日本で起こった阪神淡路大震災。そして、これでダメージを受けた日本に追い討ちをかけるように東日本で同年3月20日に起こったのが、オウム真理教団による地下鉄サリン事件です。
私は当時東京本社に勤務し日比谷線を利用していて、危うく犠牲者の一人になったかもしれない身です。この忌々しい事件から22年が経過した今、村上春樹が犠牲者やその家族62名にインタビューしてまとめたドキュメンタリーを読了しました。
単行本だと728ページもある本書を読んだおかげで、今月の読書数は低位にとどまっていますが、質量ともに「重たい」本でした。
地下鉄サリン事件と言えば、加害者のオウム真理教団や麻原彰晃をはじめとするメンバーばかりにスポットが当たり、被害者の実相に焦点を当てた報道や本はあまり目にしなかった気がします。
本書は約5000名とも言われる被害者のごく一部の関係者に村上春樹本人が実際にインタビューをしてまとめ、1997年3月に出版された力作です。
恥ずかしながら、出版当時はこの本のことを知らずに最近まで過ごしていましたが、友人が読んで激賞していたのをfacebookで目にして読みました。
村上春樹と言えば「世界的に有名な」の冠がつく小説家ですが、本書はまず小説ではなくノンフィクションであるという点に注目しました。
登場する人物の被害の状況や年齢・職業は様々。でも、全てに共通するのが「あの日」たまたま地下鉄に乗っていたというだけです。
仕事の都合で普段よりも少し早く家を出たため事件に遭遇した人、被害にあったけれどもいつもの時間帯でなかったので九死に一生を得た人など様々な人がいました。
地下鉄職員の中には、職業倫理を強く持って自らの安全は二の次に乗客の救助に当たった結果、命を無くした人も存在します。
私も含め人生における人の「運」「不運」を考えざるを得ません。「日常」と「非日常」の間の境界のなんと狭いことかと。毎日の「日常」の平和がなんと貴重なことかと非常に感じ入りました。
読書中に泣きながら、時には嗚咽しながら、最後まで何とかたどり着きました。
「オウム的」なものは、日本や世界の至るところに「今」もあり、現代社会の病巣について、考える機会を与えてくれる本書。
私は村上春樹の特にファンではないですが、こうしたノンフィクションにおける彼の力量を感じた本でもあります。
この日本の歴史に残る悲惨な事件を次世代に引継ぎ風化させないためにも、一度は読んでおきたい一冊です。
I hope you like it.