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『エンダウメント投資戦略』は一読推奨

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過去記事を一部編集して再紹介するシリーズです。今回は「エンダウメント投資」という一般的には馴染みのない投資について書かれた本をご紹介します。

副題は「ハーバードやイェールが実践する最強の資産運用法」となっています。

エンダウメントとは「財団」のことで、寄付金を集めて資産運用を行う大学などがこれに相当します。

本書は和製ヘッジファンドのGCIアセット・マネジメント 代表の山口英資氏がプロではない、一般の個人投資家を念頭に書いた本となっています。

著者には『オルタナティブ投資入門―ヘッジファンドのすべて [単行本]』という本があります。これはプロ向けの本で、初版が出された2002年当時はオルタナティブ(代替)投資という用語は金融業界でもあまり知られていなかったそうですが、いまや機関投資家の間ではすっかり普及しています。

本書では、米国エンダウメント(財団)が行うオルタナティブ投資を含めた資産運用の手法を単なる金融商品の紹介にとどめず、長期投資の枠組み(フレームワーク)とプロセスまで紹介するものとなっています。

<世界で最も先進的な機関投資家>

・世の中には日本の年金運用を担うGPIFやカルパース(カルフォルニア州職員退職年金基金)等著名な機関投資家が存在しますが、実はそれらと同等以上に高く評価されている存在なのが米国のエンダウメントです。
・例えば、イェールの財団の場合、1994年からの20年間でなんと年平均13.9%のリターンを上げています。この結果、2014年6月末の資産規模は日本円換算(1ドル120円)で2兆8700億円もの巨額になっています。ちなみに日本の大学では最大規模の慶應義塾大学が480億円、東京大学も100億円しかありません。2008年の金融危機を含む2004年からの10年間の経費控除後のリターンは11.0%となっており、米国株式の年平均リターン8.4%、米国債券の4.9%を大きく上回っています。

<最大の強みは返済する義務のない自己資金を運用している点>

・銀行預金や保険、年金などはすべて債務として預った資金であり、いずれ何らかの形で返済しないといけないのに対し、財団はもともと寄付金などからつくられており債権者が存在しないことから、いわば半永久的に運用を続けることを前提とすることができるのです。このため、金融危機時等において、機関投資家などの資金が諸々の制約から一部資産売却等に追い込まれる局面でも、償還期限・運用期限のない財団は一喜一憂することなく安定運用できるのが強みとなっています。

<エンダウメント投資戦略とは>

1)長期で投資する

2)分散投資を徹底する

3)オルタナティブ投資を積極的に活用する

4)外部の運用会社を使う

のが骨子となっています。

1)の長期で投資するの部分で注目点は、償還期限のない財団の特性をフルに活用して、流動性が劣りなかなか資金の出し手が現れない投資対象にも、より高い金利など有利な条件で投資している点。 2)の分散投資の徹底は割愛します。

3)オルタナティブ投資を積極的に活用するの部分が最大の注目点です。最近、カルパースがヘッジファンドへの投資を縮小する等のニュースがあったので、余計にこれは意外でした。例えば、イェールの2014年6月の資産配分は以下のとおりとなっています。

国内株式(米国):6.0%
外国株式:13.0%
債券:5.0%
絶対リターン(ヘッジファンド):20.0%
プライベート・エクイティ:31.0%
実物資産:25.0%
現金:0.0%

いかがですか。

いわゆる伝統的運用戦略は、国内株式・外国株式・債券の合計で24.0%の配分にとどまっています。一方、オルタナティブ投資戦略では、絶対リターンとプライベート・エクイティ、実物資産の合計で76.0%投資しています。2001年の段階では伝統的運用戦略の割合は35.0%、オルタナティブが65.0%の割合でしたので、一段とオルタナティブへ傾斜していることが確認できます。

4)外部の運用会社を使うについては、具体的な選定方法が書かれていましたが、割愛します。

<エンダウメントと個人投資家の共通点>

・運用金額が巨額で、最先端の金融理論にも精通した「プロ中のプロ」と個人投資家は一見対極にあるように見えます。でも、運用資金の性格を考えると、借金ではなく自己資金で運用できるという点で、両者はとても似ていると著者は指摘。時間を有効に活用できる強みを個人投資家も利用するべきだと。

<目標リターンではなく、まずリスク量を決める>

・専門用語では「リスク・バジェッティング」と呼ぶものです。まず、ポートフォリオ全体で許容できるリスク量を決めて、次に、各戦略間の相関をもとに、どの戦略にどの程度のリスクを振り向けるかを決めていく・・・・

<エンダウメント投資の個人実践方法>

・本書後半では、一例として個人のモデル・ポートフォリオなど具体的な手法についても解説がなされています。
(伝統資産)
・日本株(日経225 ETF)10%
・世界株(S&P500 ETF)30%
・債券(US bond ETF)20%

(オルタナティブ資産)
・日本不動産(J-REIT)5%
・米国不動産(US-REIT)5%

(オルタナティブ手法)
・リキッド・オルタナティブ投信 30%

米国エンダウメントほどではないですが、非伝統的資産への割合が40%を占めること、そして、このうちヘッジファンドへの投資割合が3割を占めるのが一番の特徴と言えます。

リキッド・オルタナティブとは日次で解約可能な個人投資家向けのヘッジファンドのことで、リーマン・ショック後米国では急成長し、2014年7月末時点で日本円換算で約36兆円を超える規模になっているそうですが、日本では類似のものは殆ど存在しない現状にあります。(著者の会社で準備をしている模様)

本書ではこのリキッド・オルタナティブについて詳しい解説がありますが、この部分は少々難解かもしれません

全体を通して、従来の一般の個人向け投資本には書かれていなかった事項が多く含まれる本書。少しマニアックな部分もありますが、内容の濃い一冊でした。

私はKindle版で読みました。割とすぐ読める本です。

I hope you like it.

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この記事を書いた人
エル

50代、4人家族。1991年株式投資を開始。リーマンショックの影響により過去最高の含み損を抱えるも、2009年末に復元。2011年レバレッジ投資(両建て投資)終了。2019年セミリタイア。現在は米国株を中心に運用中。趣味は読書で「積ん読」は数百冊を誇る。音楽や映画鑑賞も好きです。

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